「性別」とは何か? ~“公正”なスポーツ界の問題から考える。
英紙タイムズ(The Times)は2月13日、国際陸上競技連盟(IAAF)が、女子800メートルの五輪女王キャスター・セメンヤ(Caster Semenya、南アフリカ)選手は、「生物学上は男性」に分類されるべきであり、女子の競技に出場するのであれば、男性ホルモンのテストステロン値を抑える薬を服用しなければならないと主張する見通しだ、と報じました。
これに対してセメンヤ選手は、テストステロン値が高い女子選手の出場資格を制限するIAAFの規定について、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴しています。
IAAFは、セメンヤ選手をはじめとした「性分化疾患(DSD)」のアスリートは、競技の公平性を守るため、薬でテストステロンの値を下げない限り大会に出場できないと主張し、争う見通しだという事です。
テストステロンというホルモンは主要な男性ホルモンで、男性の精巣(睾丸)と副腎、女性の場合は卵巣、脂肪、副腎でつくられます。
テストステロンは骨や筋肉、血液をつくり、体脂肪を減らして、いわゆる「男らしい」肉体をつくる働きがあります。
IAAFの弁護士ジョナサン・テイラー(Jonathan Taylor)氏はタイムズに対し、
「もしCASが女子の出場資格は性別の法認定だけで十分だと判定し、IAAFが法的には女性だがテストステロン値が男性レベルだと検査で判明した選手に対し、女性レベルにその値を下げるよう求めることを許可しなかった場合、DSDやトランスジェンダーのアスリートがこの競技における表彰台と賞金を独占する事になる」
とコメントしました。
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この規則は2018年11月から採用されていて、該当する選手が薬物摂取を拒否した場合、今年のドーハ世界陸上、東京五輪への出場には赤信号が灯ることになります。
しかし、スポーツライターの及川彩子さんは、「明らかに南アフリカのキャスター・セメンヤを狙い撃ちしている」と指摘しています。
それは、検査の対象がハードルを含む400mから1600mの間の種目に限られている点、意図的にテストステロン値を下げることでパフォーマンス低下が避けられない点から明白であるとの事です。
確かに、スポーツ選手が自己の能力を下げることを強制されるのは、どう考えても理不尽です。
「自分の種目が対象じゃないから、自分には無関係と思っている選手も多いかもしれない。でも女子選手の『誰か』がこれで影響を受けていることを忘れちゃいけない」
と怒りをあらわにしています。
「なぜ一部の種目なのか。公平性を求めるなら全種目を対象に検査をすればいいのに」
セメンヤ選手は「アンドロゲン過剰症」と呼ばれる症状で、テストステロンの値が、平均女性の3倍あると言われています。
セメンヤ選手はリオ五輪で圧倒的な強さで優勝。しかし、レース後に他の選手とハグをしようとしたところ、一部の選手が拒否する事態も起きました。
とても悲しいことです。
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では実際のところ、セメンヤ選手の記録が男子並みにずば抜けているかと言うとそうでもなく、自己記録は世界歴代8位にとどまり、世界記録から2秒近くも遅いのです。
セメンヤ選手が国際舞台に現れたのは2009年ベルリン世界陸上。
逞しい体つき、低い声、言葉遣いなどから、800mの予選、準決勝とラウンドが進むうちに、「本当に女子なのか」と性別を疑う声が上がりました。
IAAFはセメンヤ選手の性別検査を実施しました。
検査はヒゲなどを含む体毛の長さや生え方、性器の確認などをはじめ数項目に渡っていました。
当時18歳のセメンヤ選手には拷問のような仕打ちだったのではないでしょうか。
しかし最悪の問題が発生しました。
検査後にIAAFのピエール・バイス(Pierre Weiss)事務総長が、マスコミに彼女が両性具有であることを漏らし、大々的に報じられてしまったのです。
「両性具有」と本人の了解を得ずして暴露したことは、倫理的に許されることではないと思います。
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LGBTQと言った性的マイノリティーたちが正当な権利を主張し始め、世界が変わりつつあります。
セメンヤ選手の問題は、「性別とは何か?」、ひいては「性別は必要なのか?」と言うことまで深く考えさせるものです。
皆さんも、この問題について考えてみてください。
【必読】未読だけど絶対読みたい! サイエンス系良書・9選
サイエンス系の本が書店でも増えている印象ですが、本当にためになる手応えある読みたい本をピックアップしました。
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想像するちから チンパンジーが教えてくれた人間の心
松沢哲郎
岩波書店
家族進化論
山極寿一
東京大学出版会
人間以外には見られない、家族を単位とした共同体。
鼻の先から尻尾まで 神経内科医の生物学
岩田誠
中山書店
神様の失敗。
言語が違えば、世界も違って見えるわけ
ガイ・ドイッチャー
インターシフト
言語は思考に影響を与えるのだろうか。
ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯
ヴォーンダ・ミショー・ネルソン
あすなろ書房
黒人に関する本だけを扱う書店の話。
未来世代の権利 地球倫理の先覚者、J-Y・クストー
服部英二
藤原書店
ユネスコの「未来世代に対する現存世代の責任宣言」「文化の多様性に関する世界宣言」。
精神を切る手術 脳に分け入る科学の歴史
橳島次郎
岩波書店
ロボトミーは悪なのか。
手話を生きる 少数言語が多数派日本語と出会うところで
斉藤道雄
みすず書房
手話は自然言語。
ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力
帚木蓬生
朝日新聞出版
人間の究極の能力は「寛容」。
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とりあえず、今読んでいる『逃げるは恥だが役に立つ』を9巻まで読んだら、取り掛かりたいと思ってます。
ロンブー田村淳さんがeスポーツに参入 ~「吉本をぶっ潰す(笑)」
先日、eスポーツに関する記事を書きましたが、タイミング良く、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんがeスポーツチームの応援サポーターに就任した、というニュースが入りました。
2月6日、田村さんは自身がアメリカ・カリフォルニアに設立し取締役を務める「Be Blue Ventures」が、プロジェクトの一環として、eスポーツチーム「BBV Tokyo」を起ち上げることを発表し、ユニフォーム姿で記者会見に臨みました。
「BBV Tokyo」は2019年2月現在10名の選手を擁し、スポーツゲーム選手・アクションゲーム選手・シューティング選手の3部門に渡って国内リーグや世界大会への参加を予定しているとのこと。
田村さんが所属する吉本興業も、2018年3月から、プロチーム「よしもとゲーミング」を運営していますが、
「吉本興業もeスポーツチームを作っているけど、僕は外から会社を立ち上げて吉本をぶっ潰してやろうと思って」
と冗談雑じりに語る田村さん。
彼はeスポーツについてどのように考えているのでしょうか。
僕は運動神経は全然ないんですけど、鉄拳(というゲーム)では相手をボッコボコにしますから...(笑)。
なので、運動神経に自信がないなと思う人も、eスポーツだと自分の力を発揮できることがあるんで、そういう人にもどんどん参加してもらいたいですね。
と、やはり新たな可能性を感じているようです。
ただ、日本での普及については、賭博法や風営法などの法改正が必要と言い、「賞金額が上がっていけば、おのずと日本国内の選手ももっと力を入れるでしょうし、海外からも有名選手がやってくると思う」と言っています。
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田村さんは、自分の知名度やキャラクターを巧く使っているな、と思います。
かつて手塚治虫が、自分が医学博士であるという“権威”を利用してマンガやマンガ家の地位向上に努めたことと重なってきます。
中身のない「タレント議員」は有害ですが、ゲーマーで練習も欠かさない「タレントゲーマー」は、eスポーツ発展の鍵を握ると思います。
最後に、田村さんの公式コメントを紹介して、締めさせていただきます。
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eスポーツは誰もが参加できる競技として、これからも沢山の人たちに勇気や夢を与えられるものだと思います。
障がいをお持ち方や、運動や勉強が苦手で悩んでいる子供達にも自分を表現する選択肢としてこの競技が多くの人に応援してもらえるよう、自分自身も取締役として参加しながらこのチームを全力で応援していきたいと思っています。
チャリティーソングの頂点『ウィー・アー・ザ・ワールド』を振り返る
1985年3月7日にリリースされたチャリティーソング『ウィー・アー・ザ・ワールド』は、全世界で2000万枚以上のセールスを記録、アフリカおよびアメリカの人道支援に6300万ドル(約70億円)以上もの募金を集めました。
マイケル・ジャクソンの『スリラー』など多数のビッグセールスをプロデュースしたクインシー・ジョーンズは今でも、これが輝かしいキャリアの中での最高の瞬間だと言っています。
このプロジェクトの発案者は、ハリー・ベラフォンテ。
バンド・エイドの「ドゥー・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」に影響され、エチオピアの飢饉撲滅に向けたアメリカ版オールスターソングを作ろうと考えたのが始まりです。
バンド・エイド (Band Aid) は、イギリスとアイルランドのロック・ポップス界のスーパースターが集まって結成されたチャリティー・プロジェクトです。
チャリティーソングの先駆者ですね。
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しかしベラフォンテの仕事は、人脈を使ってライオネル・リッチーやケニー・ロジャース、スティーヴィー・ワンダーに声をかけてもらったことまでで、以降のプロデュースは大物クィンシー・ジョーンズが行うことになります。
ジョーンズはマイケル・ジャクソンを呼び寄せ、リッチーやワンダーと共同で作曲にあたらせました。
一方ジョーンズは、その膨大な人脈で大スターたちを集めていきました。
スケジュールの都合でスティーヴィー・ワンダーが一時離脱し、曲作りは思うように進まなかったようで、ジャクソンとリッチーは最初のレコーディングが始まる前の晩になってもまだ、のちに『ウィー・アー・ザ・ワールド』となる曲の歌詞を書いている途中という状況でした。
そうして1985年1月28日、レコーディングのため音楽界のビッグスターたちがハリウッドのA&Mスタジオに続々と入っていきました。
同じ日の夜、街の反対側で行われていたアメリカン・ミュージック・アウォードから直行した者も多かったと言います。
タキシード姿でのチャリティーソング収録は誤った印象を与えかねない、と考えたジョーンズは服を着替えさせ、関係者全員に、かの有名な「お願い」をしました。
「エゴは入口に置いていってくれ」。
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リッチー、ジャクソン、ワンダー、ロジャース以外にこの曲でソロパートを歌ったのは、以下のミュージシャンたちです。
- ポール・サイモン
- ジェームス・イングラム
- ティナ・ターナー
- ビリー・ジョエル
- ダイアナ・ロス
- ディオンヌ・ワーウィック
- ウィリー・ネルソン
- アル・ジャロウ
- ブルース・スプリングスティーン
- ケニー・ロギンス
- スティーヴ・ペリー
- ダリル・ホール
- ヒューイ・ルイス
- シンディ・ローパー
- キム・カーンズ
- ボブ・ディラン
- レイ・チャールズ
また、バンド・エイドの発起人、ボブ・ゲルドフも同席しました。
レコーディングは12時間弱にわたり、翌朝8時まで続きました。
最後までスタジオに残っていたのはジョーンズとリッチーだけでした。
また、これだけのスターが集まったのですから、皆が100%納得していたわけではありません。
スタジオ内には曲に対する反対意見もあり、曲が少々わざとらしいと感じる者もいました。
「あの場にいたほとんどの人間が、あの曲をあまり気に入っていなかったが、誰も口に出さなかった」
2005年、ビリー・ジョエルはローリングストーン誌のインタビューでこう答えました。
シンディ・ローパーは、「ペプシのCMソングみたいね」と耳打ちしてきたそうです。
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しかしながら、この一大プロジェクトが無事形になり、大きな成果を上げたのは、やはりプロデューサーであるジョーンズの手腕があってこそだと思います。
ジョーンズは、「はるか遠くで過酷な状況に苦しむ人々を救うために、世界中から46人のビッグスターがひとつの部屋に集まった」ことを今でも感動とともに語ります。
目的のためにエゴを捨て、この曲に参加したスターたちにあらためて敬意を表したい。
チャリティーと言うと、「売名行為だ」「偽善者」と言う人が必ず出てきます。
でも私は、
何もしない善人より、手を差し伸べた偽善者のほうがはるかにマシ
だと思います。
金持ちほどケチになる、と言いますが、スターや富豪たちが自分の力をどう使うかは、その人の人間性をダイレクトに示してくれるので分かりやすい。
隠れてこそこそ悪いことをやっている人こそ、本当の貧困や飢餓の要因だと思います。
偽善でもいいから、困っている人たちに自分のできることをする。
だからこそ『ウィー・アー・ザ・ワールド』は今でもその精神を継承されているのではないでしょうか。
アリアナ・グランデから日本語を奪ったのは日本人?
“親日家”ぶりをアピールしている歌手のアリアナ・グランデが、自身の関連サイトから日本語や日本の商品を削除する事態となっています。
『Billboard』の「2018 ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に輝いた彼女は、パワフルな女性の象徴である一方、漢字や仮名などの日本語を随所に散りばめるなど、「日本好き」でも知られています。
右前腕の内側に彫られたタトゥーは、映画『千と千尋の神隠し』の主人公・千尋のものです。
www.universal-music.co.jp
新曲『7 rings(七つの指輪)』を記念して「七輪」と漢字のタトゥーを入れた彼女ですが、この公式ツイートに「間違い」を指摘したリプライ(返信)があったことをきっかけに、ついにはアリアナが関連サイトからすべての日本語や日本語が写った画像を削除する破目となってしまいました。
「七輪」じゃなくて... 🤔🤔🤔#Tokyo2020@ArianaGrande @ariana_japan pic.twitter.com/JRtrz1aa6X
— Tokyo 2020 (@Tokyo2020jp) 2019年1月31日
意図はよく分かりませんが、このタトゥーは「七輪(日本のバーベキューグリル)」で指輪じゃない、というリプライのようです。
するとアリアナは「小さなバーベキューグリルも大好きよ」とツイッターで言及し、あまりの痛さに「七つの指輪」というすべての文字を入れることはできなかったと説明しました。
ところで、最初に誤りを指摘したアカウントは「Tokyo 2020」。つまり、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の公式アカウントです。
おそらく七輪を「五輪」に関連付けて東京オリンピックの宣伝をしようとしたのでしょうが、現在も延々と続く返信欄を見る限り、日本好きのセレブを失うという最悪の結果を招いたのではないでしょうか。
このリプライをきっかけに、海外では「文化を盗用している」と恰好の攻撃の材料となってしまいました。
この出来事を載せているネットニュースはいくつかありますが、どれも「でもアリアナはこんなに日本が好きなんだよ!」という強引な結論になっていて、真相を伝えていませんし、きっかけが「Tokyo 2020」の直接の返信であることにも触れていません。
私がこの記事を書こうと思ったのは、だったら自分が書こうというシンプルな動機です。
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日本語教師からの助言を得て、アリアナは「七輪」に一文字加え、「七指輪」とタトゥーを修正しました。かなり痛かったと思います。
しかし位置関係から、「七輪指」とも読めることがあって、「BBQグリルフィンガーだ」と揶揄する声も依然として消えず、ついにはタトゥー除去を請け負う会社「LaserAway」が彼女に高額で広告塔就任のオファーを出すまでに話が大きくなってしまいました。これは、アリアナにとって受け入れられない事でしょう。
本人は「あなたたちみんな、私のことを構わないでいてくれるなら、100万ドルあげるわ」とジョーク雑じりに返していましたが。
度重なる攻撃に疲れたのか、彼女は、
「もうほとほと疲れちゃったわ。笑 人を傷つけたくないの。
このアプリ(ツイッター)にいる人たちって人を許したり、純粋なミスをした人に優しくする方法を知らないのよね。
みんな自分のことばかりで他の人の気持ちなんて考えないの。無意味よ。だからこの話はもうしない。」
と一連の騒動へのコメントに悲しみと憤りを示しています。
「(文化の)盗用と感謝には違いがあるわ。日本人のファンは私が日本語を書いたり、日本語の服を着るといつも喜んでくれるの。
でも、もう日本語が使用されているものは私のサイトから全て削除したわ。」
「(日本語の)レッスンを受けるのも辞めるわ。日本語の勉強は本当に私に喜びを与えてくれるもので、夢中になってることなの。
本気でいつか(日本に)移住したいって思っていたのに。でも、大丈夫。良い一日を」
こうして「Tokyo 2020」の返信をきっかけに、アリアナ・グランデは日本語を捨てざるを得なくなったのです。
問題の返信は現在も削除されずに残っています(信じられないことに!)。
もちろんすべての責任を1つのツイートに負わせるのは行き過ぎですが、いまだに放置され、何の説明や補足もないのはさすがに無責任ではないでしょうか。
宣伝にセレブを利用しようとし、失敗すれば放置する。
その結果、多くのものを失ったこと、アリアナ・グランデという1人の日本好きな女性が離れてしまった事、それがとても悲しく、やりきれないのです。
「大坂なおみ選手は日本人」 ~多重国籍を認めない日本の閉鎖性
1月27日、こんなツイートがありました。
大坂なおみの国籍選択の期限が来る。五輪もあるし、多分米国籍を選択すると思うが、そのときの日本人の失望はすごいだろうな。政権が倒れるぞ、下手すると。マスコミも困るだろうな。どうする諸君。
— 潮田道夫 (@mushioda) 2019年1月27日
テニスの四大大会の一つ、全豪オープンを制覇して女子テニスの世界ランキング1位となった大坂なおみ選手について、毎日新聞客員編集委員で帝京大学教授の潮田道夫氏がツイートしたもの。
上から目線の印象ですが、大坂選手がアメリカ国籍を選ぶ、ということが、“多分”ではなく実際にどうなのか考えてみました。
結論から言うと、大坂選手が東京オリンピックにアメリカ代表として出ることは非常に難しく、出場するならば日本代表になると考えられます。
なぜなら、彼女は、国際テニス協会における国籍登録、つまり「テニス選手としての登録」では日本国籍を使用していて、現実的にオリンピック憲章規則の条件をクリアすることが難しいからです。
オリンピック憲章規則の41の付属細則のその1にはこう書かれています。
「同時に2つ以上の国籍を持つ競技者は、どの国を代表するのか、自身で決めることができる。
しかし、オリンピック競技大会、大陸や地域の競技大会、関係IF(IOC公認の国際競技連盟)の公認する世界選手権大会や地域の選手権大会で1つの国の代表として参加した後には、別の国を代表することはできない。
ただし、国籍を変更した個人、もしくは新たな国籍を取得した個人に適用される以下の第2項の定める条件を満たした場合は、その限りではない。」
つまり、選手は自由にどの国を代表するか選ぶことはできるが、一度選んだ国籍で指定の大会に出場すると、別の国の代表になることができないということです。
大坂選手は2018年4月のフェド杯世界グループ2部入れ替え戦に日本代表として出場していて、一度日本という国籍を選択して大会に出場している以上、アメリカの代表にはなることができないのです。
しかし、第2項の定める条件には次のような規定もあります。
「上記の大会で1つの国の代表として参加したことがあり、かつ国籍を変更した競技者または新たな国籍を取得した競技者は、以前の国を最後に代表してから少なくとも3年が経過していることが新たな国を代表してオリンピック競技大会に参加する条件となる。」
3年経っていれば国籍を変更してオリンピックに出ることはできますが、東京オリンピックが開催されるのは2020年、大坂選手の場合この「3年経過」という条件を満たしません。
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大坂選手の活躍は、期せずして、日本社会に「国籍とは何か」、ひいては、「日本人とは何か」という大きな課題を提示していると思います。
その課題とは、時代遅れとも言われる、日本の二重国籍禁止規定の是非です。
現在、法務省は二重国籍を原則認めていません。
大坂選手は現在、日本とアメリカの二重国籍を持っていますが、日本政府が特例として黙認しない限り、どちらの国籍を選ぶかを22歳の誕生日までに決定しなくてはなりません。
二重国籍を認めていない国は、概ねアジアとアフリカに多く見られますが、世界的には50か国ほどにとどまっています。
お隣韓国では2011年に施行された改正国籍法で、一定の要件を満たす人に限って重国籍を容認しました。
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現在、日本人に生まれても、外国籍を取得すれば日本国籍を失うとする日本の国籍法の規定は憲法違反だとして、海外に住む日本人らが日本政府を相手取って訴えを起こしています。
二重国籍になった時点でやむを得ず日本国籍を離脱した日本人は、100万人に上るとも推計されています。
原告の一人、白石由貴(Yuki Shiraishi)さんは、「私が同意していないのに国籍を取り上げられた」と深く傷ついた心情を語っています。
国境を越えた人の移動が頻繁になり、国際結婚も珍しいことではなくなる中で、二重国籍禁止がどのような意味を持つのか不明です。
生まれながらの二重国籍者にとって、どちらの国籍を選択するかはアイデンティティにかかわる問題です。
そういう人たちに選択を強要すること自体が正しいことなのかを、法務省は真剣に検討する必要があると思います。
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しかし実は、この国籍法は罰則がないので、"ザル法"とも言われているのが実態です。
法律上は、期限が来た人に法務省が「催告(国籍選択義務の履行を求める通知)」をするのですが、2008年、法務大臣は国会で、「催告したことはない」と答弁しています。
とはいえ、大坂選手の場合は、彼女が二重国籍であることがことあるごとに取り上げられるので、周知の事実となってしまっています。
流石の法務省も、見過ごすことは難しいのではないでしょうか。
しかし、なにしろ安倍首相が国威発揚の場と考える東京オリンピック。
「新しい判断」で、大坂選手の二重国籍問題を法務省がお目こぼしする可能性も充分にあるでしょう。
そうなれば多重国籍問題が大きな議論となることは間違いありません。
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多重国籍には、複数の国で主権者として振る舞えるというメリットもありますが、同時に複数の義務を負うという事でもあります(イスラエルでは多重国籍者にも兵役義務があります)。
私は、「国籍は一つでなければならない」という法律は実態にそぐわないし、根拠も薄いので、多重国籍は認められるべきだと思っています。
アメリカは出生地主義なので、生まれた瞬間からアメリカ国民ですしね。
問題は大坂なおみ選手だけではなく、現在、国内外にいる二重国籍を持つ人たちが、国籍選択を迫られたときどうするかということです。
大坂なおみ選手にしても、オリンピック後に放棄したアメリカ国籍を再度取得する可能性もあります。
そのとき、日本のメディアや「日本人」による激しいバッシングが起こることは容易に想像できます。
日本人って、怖いですね。
衝撃の写真集『水俣』が映画化 ~主演はジョニー・デップ~
1970年代の日本を舞台とする実話に基づいた映画『Minamata(邦題未定)』の写真が公開されました。
主演は「シザーハンズ」「パイレーツ・オブ・カリビアン」などで知られるジョニー・デップ。
本作でデップが演じるのは、日本における“四大公害病”のひとつで、1950年代に公式に認められた「水俣病」の実状を追った写真家ユージン・スミス。
本作は、はユージン・スミスと妻のエイリーン・美緒子・スミスが発表した『水俣:写真集』(三一書房刊、中尾ハジメ訳)を基にしています。
監督を務めるのは、俳優・プロデューサー・映画監督として活躍するアンドリュー・レヴィタス。
本作には、真田広之、浅野忠信、加瀬亮、國村隼といった日本の俳優陣も結集するとのことです。
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水俣病は、熊本県水俣市のチッソ水俣工場の工業排水に含まれていたメチル水銀を原因とする水銀中毒です。
チッソの排水は、魚介類を介して熊本県・鹿児島県の住民に甚大な中毒症状をもたらしました。
企業側の隠蔽や政府の対策の遅れなどにより、長期にわたって被害が広がったほか、その後の補償や救済をめぐる問題は現在までつながっています。
映画では、第二次世界大戦に戦争写真家として沖縄戦に従軍し、功績を評価されたスミスが友人の編集者から依頼を受け、水俣病を取材すべく日本を訪れることが描かれます。
実際にユージン・スミスは、1971年から3年間水俣に住んで、患者の姿や病気の実態、その後の様子を克明に撮影。
1972年にチッソの工場を取材した際には、従業員(企業に雇われた暴力団員ともされる)の暴行でカメラを破壊され、脊椎を損傷、片目を失明する重傷を負いました。
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原作となっている写真集は、1991年に新版が出て以来新刊での入手が困難な状態ですが、図書館に所蔵してある所も多いと思うので、ぜひ読んで欲しい、必読の書です。
スミスは写真のキャプションにもこだわっており、写真家仲間からは純粋に写真だけで見せないことを批判されることもありました。
でも、読むとスミスが“ジャーナリスト”であることが理解できます。
写真は、現実の一部分を切り取るものであり、報道写真においてはそれが致命的な欠点となってしまう事もあります。
凄惨な沖縄戦を目の当たりにしたスミスだからこそ、そういう独自の方向へと進んだのではないでしょうか。
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監督は、水俣病について「過去100年で最も悲惨、しかもあまり知られていない惨事のひとつ」だと述べ、またユージン・スミスについてはその偉業を称えながら「自分の仕事で真実を明かすため、そしてかつてないほど痛烈な写真を撮るために命をかけた」人物だと語っています。
製作スタッフは、撮影に先がけて、日本で水俣病患者や家族への面会や取材を行い、サポートを受けながら準備にあたってきたということです。
2019年2月1日現在、本作は日本での撮影が進められていて、今後はセルビアやモンテネグロでも撮影が実施されるとのこと。
アンドリュー監督は撮影開始にあたって、「出演者とスタッフの一人ひとりが、水俣の人々の声に耳を傾ける」とのコメントを発表しました。
映画、そして政治オタクとして、なにより日本人として映画の完成を心待ちにしています。
三一書房さんから、映画の公開に合わせて『水俣:写真集』が再刊行されることも切に願っています。