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「性別」とは何か? ~“公正”なスポーツ界の問題から考える。

英紙タイムズ(The Times)は2月13日、国際陸上競技連盟(IAAF)が、女子800メートルの五輪女王キャスター・セメンヤ(Caster Semenya、南アフリカ)選手は、「生物学上は男性」に分類されるべきであり、女子の競技に出場するのであれば、男性ホルモンのテストステロン値を抑える薬を服用しなければならないと主張する見通しだ、と報じました。

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キャスター・セメンヤ選手(南アフリカ

これに対してセメンヤ選手は、テストステロン値が高い女子選手の出場資格を制限するIAAFの規定について、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴しています。

IAAFは、セメンヤ選手をはじめとした性分化疾患DSD)」のアスリートは、競技の公平性を守るため、薬でテストステロンの値を下げない限り大会に出場できないと主張し、争う見通しだという事です。

www.iaaf.org

テストステロンというホルモンは主要な男性ホルモンで、男性の精巣(睾丸)と副腎、女性の場合は卵巣、脂肪、副腎でつくられます。

テストステロンは骨や筋肉、血液をつくり、体脂肪を減らして、いわゆる「男らしい」肉体をつくる働きがあります。

IAAFの弁護士ジョナサン・テイラー(Jonathan Taylor)氏はタイムズに対し、

「もしCASが女子の出場資格は性別の法認定だけで十分だと判定し、IAAFが法的には女性だがテストステロン値が男性レベルだと検査で判明した選手に対し、女性レベルにその値を下げるよう求めることを許可しなかった場合、DSDトランスジェンダーのアスリートがこの競技における表彰台と賞金を独占する事になる」

とコメントしました。

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この規則は2018年11月から採用されていて、該当する選手が薬物摂取を拒否した場合、今年のドーハ世界陸上東京五輪への出場には赤信号が灯ることになります。

しかし、スポーツライターの及川彩子さんは、「明らかに南アフリカキャスター・セメンヤを狙い撃ちしている」と指摘しています。
それは、検査の対象がハードルを含む400mから1600mの間の種目に限られている点、意図的にテストステロン値を下げることでパフォーマンス低下が避けられない点から明白であるとの事です。

確かに、スポーツ選手が自己の能力を下げることを強制されるのは、どう考えても理不尽です。

女子走り幅跳びのティアナ・バートレッタ(アメリカ)選手は、

「自分の種目が対象じゃないから、自分には無関係と思っている選手も多いかもしれない。でも女子選手の『誰か』がこれで影響を受けていることを忘れちゃいけない」

と怒りをあらわにしています。

「なぜ一部の種目なのか。公平性を求めるなら全種目を対象に検査をすればいいのに」

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ティアナ・バートレッタ選手(アメリカ)

セメンヤ選手は「アンドロゲン過剰症」と呼ばれる症状で、テストステロンの値が、平均女性の3倍あると言われています。

セメンヤ選手はリオ五輪で圧倒的な強さで優勝。しかし、レース後に他の選手とハグをしようとしたところ、一部の選手が拒否する事態も起きました。
とても悲しいことです。

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では実際のところ、セメンヤ選手の記録が男子並みにずば抜けているかと言うとそうでもなく、自己記録は世界歴代8位にとどまり、世界記録から2秒近くも遅いのです。

セメンヤ選手が国際舞台に現れたのは2009年ベルリン世界陸上

逞しい体つき、低い声、言葉遣いなどから、800mの予選、準決勝とラウンドが進むうちに、「本当に女子なのか」と性別を疑う声が上がりました。

IAAFはセメンヤ選手の性別検査を実施しました。

検査はヒゲなどを含む体毛の長さや生え方、性器の確認などをはじめ数項目に渡っていました。

当時18歳のセメンヤ選手には拷問のような仕打ちだったのではないでしょうか。

しかし最悪の問題が発生しました。
検査後にIAAFのピエール・バイス(Pierre Weiss)事務総長が、マスコミに彼女が両性具有であることを漏らし、大々的に報じられてしまったのです。

www.afpbb.com

「両性具有」と本人の了解を得ずして暴露したことは、倫理的に許されることではないと思います。

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LGBTQと言った性的マイノリティーたちが正当な権利を主張し始め、世界が変わりつつあります。

セメンヤ選手の問題は、「性別とは何か?」、ひいては「性別は必要なのか?」と言うことまで深く考えさせるものです。

皆さんも、この問題について考えてみてください。