マルクスは生きている ~思考停止から抜け出そう!
2月16日、ロンドンのハイゲイト墓地にある、経済学者カール・マルクスの墓碑に、「憎悪の教え」「集団虐殺の立案者」などと赤いペンキで落書きされているのが見つかりました。
この墓碑が荒らされるのは、今月に入って2度目だそうです。
Vandals back at Marx Memorial, Highgate Cemetery. Red paint this time, plus the marble tablet smashed up. Senseless. Stupid. Ignorant. Whatever you think about Marx's legacy, this is not the way to make the point. pic.twitter.com/hGKBMYGWNy
— Highgate Cemetery (@HighgateCemeter) 2019年2月16日
マルクスは、ドイツの共産主義思想家・運動家で、いわゆるマルクス主義の祖。
マルクス主義は、エンゲルスとともに打ち立てられた理論で、資本主義社会をブルジョアジー(ある程度豊かな都市市民層)とプロレタリアート(労働者階級)の対立としてとらえ、プロレタリア階級の勝利によって無階級社会 を実現していかなければならないとする思想です。
ちなみにエンゲルスはマルクスの盟友で、ご存知「エンゲル係数(1世帯ごとの家計の消費支出に占める飲食費の割合)」で知られるエンゲルの法則を発表した人です。
※2017年度の日本の総世帯におけるエンゲル係数は、25.5%です。(総務省統計局)
マルクスの墓碑には、「万国の労働者よ、団結せよ(proletariërs aller landen, verenigt U!)」という、『共産党宣言』の一文が刻まれています。
しかし、マルクス主義と言うと「社会主義」「共産主義」が連想され、かつてのソヴィエト連邦(ソ連)や共産圏で行われてきた虐殺、独裁、強制収容所と言った負のイメージがあまりに強いため、かつては聖書の次に多く読まれていると言われた『共産党宣言』も、見向きもされなくなっている現状があります。
だが、今の社会で「マルクスは何を言ったのか」「どんな社会を目指したのか」を正しく知ることはとても重要だと思っています。
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マルクスの主著『資本論』には、たびたび「階級闘争」という言葉が出てきます。
『資本論』は、商品化されたプロレタリアートの労働力(労働力商品)が安く買いたたかれ、搾取されていく現実を分析したものです。
これは今も変わっていません。
一般に混同されているのが、社会主義と共産主義です。両方とも同じで悪いもの、と思われています。
それが現れているのが冒頭の墓碑への落書きですね。
社会主義= Socialismでsociety(社会)からきています。資本主義で封建制度が崩壊し、自由となった社会というのはいたって不安定です。その混乱した社会をさまざまな形で規制していくのが社会主義です。
それに対し、共産主義= Comunismはcomune(共同体)がもとの言葉。ですから、財産を共同化することが共産主義というのが一般的な解釈です。
つまり私有財産というものがなくなり、共同体みんなの財産になります。
マルクスは、社会主義は共産主義の最初の段階と考えていました。社会主義は資本主義が抜け切れていない状態です。
たとえば、社会主義は資本主義のように個人の能力に応じた給与をもらいます。この二つは「平等な社会を目指す」という意味で同じ社会に向かっていますが、ソ連などの国々はまだ社会主義であって、共産主義に至っていませんでした。
ソ連や東欧は所有を国有化するということで、所有の社会化を図りました。ソ連の場合は全面的国有化といって、企業も土地も国のものにしてしまいました。(旧東ドイツや東欧は土地の国有化まではしていません)
しかし、社会化と国有化は全く別のもの。全面的国有化は共産党の独裁を意味します。これは私有と同じで、国家が企業になったと考えると簡単です。
私の考えでは、今まで社会主義国家はいくつもありましたが、「共産主義国家」はひとつも誕生しないままだったと思います。
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マルクスは、資本主義システムを徹底的に解析し、そのシステムが永遠には続かない、つまり「資本主義の終焉」が来ることを予言しています。
これまで、資本主義社会の経済成長というものは無限に続く、と信じられてきましたが、1929年には世界恐慌が起こり、2008年にはリーマンショックが起きました。
世界一の超大国アメリカでさえ、借金のため毎年予算案が可決されず、行政機能が停止するのが恒例になっています。
数年前ベストセラーになった『21世紀の資本』(みすず書房)という本の中で、トマ・ピケティは、資本主義経済が最終的に貧富の格差を広げる、と主張しました。
独り勝ちした企業以外が崩壊していくのだとすれば、資本主義は我々が選ぶべき制度でないのではないでしょうか。
昔は、ものが売れなくなったら新製品を売れば、経済成長は回復しました。たとえば、車や飛行機など高値で大量に売れるものを新しくつくれば良かったんですね。
さらに、家電製品などでおなじみの10年ほどで商品を使えなくする法が作られました。ところが、現代になって大量生産・大量消費が環境破壊につながるという問題が生じたのです。
マルクスが私たちに伝えていることは、今の資本主義社会だけが選択肢ではないということです。こんなに貧困で不幸になるよりは、別のシステムの世界があるということを考えれば、未来が開けるはずです。
それがどんなシステムなのかは、私にはまだ分かりませんが、マルクスを読むことで今の社会を分析することができると感じています。
2018年には、マルクス生誕200周年を記念したユーロ紙幣が発行されるなど、その影響は今も色あせていません。
―自らの道を歩め。他人には好きに語らせよ。―
一度マルクスへの考えを語ってみたかった自分を駆り立てたマルクスのこの言葉を、皆さんへも贈ります。