「奨学金という名のローン」~若者を蝕む少子化の元凶
今、学生が一番集まるイベントは、学園祭ではなく奨学金説明会です。
奨学金とは、経済的理由により修学に困難がある優れた学生に貸与されるもの。また、卒業後返還された奨学金は、後輩の奨学金として再び活用されます。
奨学金を利用する大学生の約8割が使っているのが日本学生支援機構です。
1990年代半ばまでは少数だった奨学金利用者は、今や大学生の半数を超えました。
日本の奨学金制度の歴史をかんたんに振り返ってみます。
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●育英会創立(1943年)
当初の名称は「財団法人 大日本育英会」。この頃の奨学金は、無利息での貸与でした。
第2次中曽根内閣で、奨学金の有利子化法案が国会を通過しました。
全面有利子化の流れがありましたが阻止され、現在のような無利子と有利子の2本立てとなりました。
●育英会の廃止を示唆(2001年7月)
●育英会廃止(2001年12月)
小泉内閣の「骨太の方針」の一環として公益法人の制度改革が行われ、日本育英会も廃止されることが決定しました。
●日本学生支援機構設立(2004年4月)
文部科学省所管の独立行政法人として、独立行政法人日本学生支援機構が2004年4月1日に設立されました。
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こうして見ると、無利子→有利子→育英会>学生支援機構という流れがはっきりしてきます。
日本の高等教育への予算は、OECD(経済協力開発機構)平均の半分以下(GDP比)。
ゆえに大学の学費は上りつづけています。
1970年に1.6万円だった国立大学の初年度学費は、2010年には81万7800円に。一方で、世帯年収の中央値はピークだった1998年から100万円も下がり、必然的に奨学金がなければ子どもを進学させられない家庭が増えました。
1984年に有利子の奨学金導入をした際、「無利子を補うもの。財政が好転したら廃止も検討」という付帯決議がつきましたが、イザナギ景気越えと言われる好景気らしい現在も、有利子奨学金の廃止はまったく検討されていません。
無利子枠の希望者は近年、毎年2万人ずつ増えていますが、2009年には無利子希望者の78%が不採用、つまり奨学金を受けることができませんでした。
さらに教職に就いた場合の返還免除制度は1998年に廃止、大学の研究職についた場合の返還免除制度も2004年に廃止されました。
しかし最大の問題は、2007年度から民間資金が導入され、金融機関が奨学金で儲けていることです。これはもはや「貧困ビジネス」ではないでしょうか。
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中京大学の大内裕和教授によると、
と言います。
返還が不安で借りる額を抑えたり、奨学金を使わない学生もいますが、不足分を埋めるために、バイト漬けの学生生活を強いられます。
これが劣悪な労働条件でもバイトせざるを得ない「ブラックバイト」問題につながっています。
大内教授のゼミ生の半数は「返還だけならなんとかなる」と答えましたが、そこに子育てを加えると全員が「無理」と言ったそうです。
司法書士の中には、
今の奨学金の制度が、このようなゆがんだ制度になってしまっている以上、私たちが身を削ったり、人生を棒に振ってまで、返済を優先することはないのです。
と、奨学金の返済が困難な場合の債務整理を積極的に請け負っている人もいるほど、現在の支援機構による「奨学金」制度は悪質です。
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世界の奨学金は原則給付です。返還が問題になる奨学金というのは、世界的にはきわめて例外なのです。
アメリカでも70%が給付です。大内教授がニューヨークでこの問題を話した時、「それは奨学金ではなくローンだ」と言われたそうです。
これが常識的な見方なのです。
返済に追われれば、まず結婚できないし、出産・育児はますます不可能になってしまいます。
少子化対策というなら、まずは、
- 返せない人にさらなるペナルティを課す延滞金制度の廃止
- 無利子枠増加と給付型奨学金導入
をすぐに実行すべきでしょう。
そして、最終的には、世界標準である給付型のみの奨学金制度にすべきです。
もともと無利子で始まったのですから、あるべき形に戻すことが必要だと思います。(了)
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