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アカデミー賞 ≒ 傑作 ~無冠の傑作たち

日本時間の2月25日朝から、第91回アカデミー賞授賞式が行われます。

花形である作品賞には、「ブラックパンサー」、「ボヘミアン・ラプソディ」、「ROMA ローマ」など甲乙つけがたい作品がノミネートされていて、専門家の間でも意見が分かれる激戦となっているようです。

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ボヘミアンラプソディ」より

いわゆる“賞レース”にさまざまな思惑や力関係があることは、皆さんもご存じのとおりです。

今回は、過去のアカデミー作品賞で納得のいかなかったケースを振り返ってみます。

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市民ケーン(1942年、第14回アカデミー賞
(原題:Citizen Kane)

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「必見」と言われる映画史上に残る名作ですが、作品賞を授賞することはできませんでした。

この年の作品賞は、「わが谷は緑なりき(How Green Was My Valley)」でした(聞いたことない…)。

●卒業(1968年、第40回アカデミー賞
(原題:The Graduate)

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映画を観ていない人でも知っているほど、この「卒業」のエンディングは有名です。
サイモン&ガーファンクルのサントラ盤も有名で、「ミセス・ロビンソン」「サウンド・オブ・サイレンス」は特に映像とリンクして人々の印象に残っています。

しかし、「卒業」も作品賞を逃しました。

授賞したのは、「夜の大捜査線(In the Heat of the Night)」でした。

大統領の陰謀(1977年、第49回アカデミー賞
(原題:All the President's Men)

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ロバート・レッドフォードダスティン・ホフマンのダブル主演と、まさに賞を獲りに行った映画でしたが、作品賞は「ロッキー(Rocky)」でした。

ロッキーはシルヴェスター・スタローン自ら脚本・監督・主演を務めた低予算映画でしたが、人々、特にアメリカに住む人々の心をつかみました。

「勝つことはできないかもしれないが、負けないことはできる」、そんなメッセージがハリウッドの賞レースシステムを覆したのです。

スター・ウォーズ(1978年、第50回アカデミー賞
(原題:Star Wars

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世界的な社会現象にまでなったスターウォーズですが、この年の作品賞は、ウディ・アレンの「アニー・ホール(Annie Hall)」でした。

確かにスター・ウォーズは映像表現に革命をもたらしましたが、内容はスペースオペラ(ヒーローが活躍する宇宙活劇)で、過熱するブームが、総じて娯楽性によるマイナス評価になったのかもしれません。

パルプ・フィクション(1995年、第67回アカデミー賞
(原題:Pulp Fiction)

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時系列をあえてバラバラにした脚本が衝撃的なこの作品は、のちの映画に大きな影響を与えていますが、作品賞は獲れませんでした。

この年に作品賞を授賞したのは、「フォレスト・ガンプ/一期一会(Forrest Gump)」。有名な映画ですが、戦争やジョン・レノンなどの歴史を意図的に書き換えていると批判の多い映画でもあります。

シックス・センス(2000年、第72回アカデミー賞
(原題:The Sixth Sense)

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霊魂と交流できる能力を持つ少年がキーマンとなるこの映画は、小説でいう「叙述」形式を見事に映像で表現したもので、大きな反響を呼びました。

しかしこの年の作品賞は、「アメリカン・ビューティー(American Beauty)」でした。

ソーシャル・ネットワーク(2011年、第83回アカデミー賞
(原題:The Social Network)

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Facebookの創業者、マーク・ザッカーバーグの「限りなく事実に近いフィクション」とされる映画。
世界中の人とつながるシステムを作り上げた本人が、誰ともつながれなくて孤独という物語は時代性や話題性、アメリカンドリームの本質などから高く評価されていますが、作品賞を獲ったのは、「英国王のスピーチ(The King's Speech)」でした。

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1990年代後半から2010年代にかけて、アメリカの映画業界を牛耳っていたのは、ハーヴェイ・ワインスタインという大物プロデューサーでした。

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この間の受賞作には、彼の意向が大きく働いています。

2017年10月5日(現地時間)、ニューヨーク・タイムズが女優クヴィネス・パルトローがワインスタインにセクハラを受けていたという告発記事を掲載。

これを機に同様の被害者たちが次々と名乗りを挙げました。

ワインスタインは、妻からは離婚を突き付けられ、自身の映画会社ワインスタイン・カンパニーをクビになり、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーの会員資格をはく奪されました。

こうしてようやくワインスタインのいないアカデミー賞が還ってきたのです。

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賞を獲れるのは1作だけですが、映画は、その他すべての99.9%の映画がなければ成り立ちません。

評価の物差しは1つではなく、観る人の数だけあると思います。

その上で、今回のアカデミー賞を楽しみたいと思います。(了)