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先進国から中世の王国へ ~実質賃金から見た日本経済の“終わってる”感

周知のように、1990年代以降の日本の賃金はほとんど上昇してきませんでした。
バブル崩壊による景気後退の影響があったとはいえ、欧米の先進国と比較して日本の賃金が低迷を続けていることは明らかです。

日本の実質賃金の下げは国際比較をしてみるとよくわかります。
1997年=100とした場合の「実質賃金指数」で見た場合、次のようなデータになります(2016年現在、OECDのデータを基に全労連作成)。

  • スウェーデン……138.4
  • オーストラリア…… 131.8
  • フランス……126.4
  • イギリス(製造業)……125.3
  • デンマーク……123.4
  • ドイツ……116.3
  • アメリカ……115.3
  • 日本……89.7

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※写真はイメージです

1997年から2016年までの19年間で、先進7カ国のアメリカやドイツでも1割以上上昇しているにもかかわらず、日本は1割以上も下落しています。

日本の賃金が上昇しない原因については、さまざまなシンクタンクエコノミストが分析していますが、次の3つが大きいと思います。

  1. 労働組合の弱体化
  2. 正規雇用者の増加
  3. 内部留保を貯め込んで賃金を上げない経営者

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労働組合の弱体化

日本はバブル崩壊によって1990年代以降、景気後退を余儀なくされました。
欧米のように、景気低迷に対しては人員カットで対応するのではなく、雇用を維持しながらも賃金で調整する、という方法がとられてきました。

労働組合も、クビにされるよりも給料を下げることに同意し、ここで日本特有のなあなあな労使関係ができあがったといっていいでしょう。

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日本の労働組合は、企業ごとに組合が設立されている「企業内組合」が一般的であり、欧州などの産業別労働組合とは異なっています。

企業内組合の場合、どうしても経営陣との交渉の中で頭が上がらない、きちんとした行動を起こせないという構造的な弱点があります。
だから、業績が悪化すれば、素直にベースアップの減額にも応じてしまうのです。

例えば、日本を代表する大企業・トヨタ自動車には、トヨタ自動車労働組合という大きな労働組合がありますが、労使協調の言わば“御用組合”であり、争議行動(ストライキサボタージュ)などは行えません。

そうした現状に不満を持つ従業員が、別の全トヨタ労働組合と言う組合を作る事態になっています。

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この組合が機関紙の配布を始めると、会社人事部などが出てきてビラを受け取らないように他の従業員に耳打ち(実際は命令に近い)して、圧力をかけることも行われています。

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正規雇用者の増加

小泉政権時代に行われた「労働者派遣法の改正」によって、日本の雇用形態は大きく変わりました。

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安倍晋三竹中平蔵小泉純一郎(左から)

企業は賃金の低い非正規雇用者を雇いやすくなりました。実質賃金低迷の原因の1つとして、見逃すことはできません。

内閣府がまとめた「データで見るアベノミクス」(平成31年1月25日)では、経済政策の成果を大きくアピールしています。例えば、雇用環境の成果として次のような項目が列記されています。

  • 完全失業率……4.3%(2012年12月)→2.5%(2018年11月)、25年ぶりの低い水準
  • 有効求人倍率……0.83倍(同)→1.63倍(同)、1974年1月ぶりの高水準
  • 正社員の有効求人倍率……0.50倍(同)→1.13倍(同)、データ収集以来初の1倍
  • 就業者数……6271万人(2012年)→6522万人(2017年)251万人増、5年連続で増加

しかし、新規雇用者数の伸びは、人口減少に対応するために非正規雇用や女性のパートタイマー従業員を増やした結果であり、完全失業率の低下や有効求人倍率の上昇は人手不足の表れといっていいと思います。

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粉飾しなければならないほど危機的なのに、何の策も取ろうとしていないところに「終わってる」感が漂っています。

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内部留保を貯め込んで賃金を上げない経営者

バブル崩壊以前は、社員こそ最大の資源、という具合に会社も賃上げに積極的でした。
優秀な人間は、一生をかけてでも育て上げていく、というのが日本企業の大きな特徴だったし、強みだったと思います。

それが、バブル崩壊以後は雇用さえ確保しておけば、賃上げなんていう贅沢は言わせない、という雰囲気に明らかに変わってきました。

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2017年度の法人企業統計によると、企業が持つ利益剰余金は446兆4844億円(金融業、保険業を除く)に達しており、金融、保険業を含めれば507兆4454億円となり、初めて500兆円の大台を超えています。
実に1年分のGDPに匹敵する余剰金で、異常です。課税するなどして還元されるようにしなければ、この意味のない剰余金は経済を圧迫するだけです。

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資本主義とは本来、利益の再分配が行われてはじめて成り立つ経済です。
それが機能せず搾取する一方の日本経済、破綻するのは目に見えています。

その要因は、小泉政権での規制緩和を中心とした過去の雇用政策や法改正にあると言えます。
そしてその時に利権で甘い汁を吸った者たちが、今でもその体制を、形を変え守り続けているのが元凶だと思います。

フランスやドイツなどの先進国では、「経済的負担が大きすぎ、デメリットが多い」という理由でオリンピックの招致活動を中止しています。商業イベントですから、儲かるのは企業です。

そんな時代にオリンピックだ、ワールドカップだ、万博だと旗振りをしている日本は、もはや先進国とは呼べないと思います。

国の借金を払うのは国民以外にはいません。皆さんもよく考えてみてはどうでしょうか。